「ハロルドが笑う その日まで」(2014)
原題:Her er Harold
製作国:ノルウェー
上映時間:87分
以下、映画「ハロルドが笑う その日まで」のあらすじ紹介、ネタバレあり感想になります。
あらすじ
あんたの隣にある椅子は、私の誇りだった。40年作り続けた、オリジナルの品だ。
全てを失ったおじいさんの復讐劇…のはずが、気付けば珍道中に?ノルウェー産のシュールなコメディです。
ハロルドは長い間地元に親しまれてきた家具店を営んでいた。しかし、店の隣にIKEA(大型家具店)が出店したため、廃業に追い込まれてしまう。時を同じくして、長年連れ添ってきた妻もこの世を去る。復讐に燃えるハロルドはIKEAの創業者であるカンプラードの元へ向かうのだが…。
という、びっくりIKEAムービーでした(笑)
IKEAについて
普段はキャストについてここで好き勝手に語るのですが、ノルウェーの芸能事情に疎いので、今回は作品で圧倒的な存在感を放つ「IKEA」について、内容薄めに書いておきます。
あたりまえですが、「IKEA」はスウェーデン発の世界的な家具チェーン店です。低価格で北欧風のおしゃれな家具を買える点が、日本でも人気ですよね。(私は「IKEA」のぬいぐるみが大好きで、よく買いに行きます。)
そして。「IKEA」の家具を買ったこともあるのですが、おしゃれなデザインだけでなく、コスト的なムダが徹底的にカットされている点も特徴の一つだと思いました。
自分で組み立てなきゃいけないのはもちろんですが、その他にも梱包材が必要最低限だったり、予備のネジがほとんど入ってなかったり、超簡素な説明図しか入っていなかったり。…ちなみに、この説明図はいろんなところでネタにされるレベルでわかりにくいです。
そんな「IKEA」ですが、この「ムダをなくす」精神は創業者のイングヴァル・カンプラード氏の考えが反映されたものなのだとか。そんなカンプラード氏が、本作では「これ、大丈夫なの?」というレベルでイジられています(笑)
しかも、劇中では彼をモチーフにしたキャラクター…ではなく、実名そのまま使ってるという(笑)ご本人の写真を見ると、敢えて似た人を選んだんだろうな…というキャスティング。この映画の公開時はカンプラード氏もご存命だったので、「IKEA」含め、よくOKしたな…と、懐の深さを感じました。
…これ以上言うとネタバレになるので、残りのネタは後にとっておきたいと思います。
感想(※ネタバレあり)
本作のユーモアは人を選ぶ気もするけど、中々の良作でした。ドライなユーモアの中に、温かなメッセージが込められています。
多分、本作が好きな人はNetflixドラマ「アフター・ライフ」なんかもハマるんじゃないかな?と思います。細かな設定は違えど、話の大きな構造は結構似ていると思うので。
ということで、ドラマ「アフター・ライフ」もおすすめしておきます。こちらも涙なしには見れないハートフルコメディです!
…話を戻します。
独特のユーモアがおかしい
これまで北欧のコメディ作品ってあんまり見たことなかったのですが、本作はドライなユーモア満載で私好みでした。ちょっと、モンティ・パイソンの笑いに近い気もしますよね。
なので、「あなたたち、何やってるの…」という奇妙な展開をものすごく淡々と描写するおかしさがあります(笑)
たとえば。プチプチで身を包むハロルドとか、おじいさんたちが寒さでブルブル震えているところとか、トランクに隠れてるカンプラードさんとか、ビジュアル的にもインパクト大(笑)面白すぎです。
この奇妙さで笑わせつつ、ちゃんとストーリーとしてもまとまっているのが本作の魅力だと思います。
いつか笑い話にできる日がやってくる
私は本作から「どんなにツラく悲しくても、いつか前を向ける日がやってくるよ」という、温かなメッセージを受けとりました。
というのも、ハロルドは愛する店や奥さんを失い、悲しみと怒りに囚われてしまいます。この悲しみや怒りは、ハロルドを復讐に駆り立てるとともに、周りに目を向けることをやめさせてしまいます。
だから、道中でおかしな出来事がたくさん起こっているのに、ハロルドはニコリともしないし、冗談を笑う余裕もなくなってますよね。
でも、一連の騒動が終わって「これからどうしよう…とりあえず釣りでも始めてみるか」と思い立ったものの、釣具を水の中に落として失敗。「何だよ!」と怒るのも束の間、突然大声で笑いはじめます。
もう、この瞬間はアハ体験(古い?)的な、点と点が繋がったような感覚でした。邦題の意味がしっくりとハマる、と言いますかね。そんな感じです。
今回は復讐の旅のはずだったのに、実際に会ってみると、憎き敵のはずのカンプラードさんも成功者のように見えて、実は寂しいおじいさんであることがわかったり。行動を共にするうちに、自分との共通点が見えてきたり。結局、憎みきれなくなってきます。
はるばるスウェーデンまで来たけど、特に何かが起きたわけでもなく、今では釣りをしている。「何やってるんだろう、自分…」と、ふと我に返ると一連の騒動がバカバカしく思えてきて、笑ってしまう。私にはそんなように見えました。
自分の不幸を笑えるようになるって、渦中にいるとなかなかできないですよね。だから、この旅で過去の負の感情を乗り越えて少しずつ前を向けるようになった、というのが「笑えるその日まで」という部分にかかっているのだと思います。
この界隈にいると「邦題がねぇ…」という問題は度々耳にしますが、本作の邦題は凄く良いと思いましたよ!配給会社の人、ありがとう!
懐が深すぎるIKEA
そして。何と言っても本作は、巨大家具企業「IKEA」の存在感が凄まじいです。だんだんIKEAの煌々と光るネオンサインが嫌味に感じられてきます(笑)
しかも、IKEAなしでは成り立たない映画なのに、劇中ではディスられまくりという…。家具職人ハロルドがIKEA家具の壊れやすさを実演披露したり、創業者カンプラードさんのよくないウワサをそのままネタにしたり…。
そう、この映画の中で出てくるカンプラードさんのネタは、ほとんどが事実&現実で囁かれているウワサが基になっています。ちょっと調べただけでもワラワラと出てきました。
実際に、カンプラードさんはエコノミークラスで移動したり、古いボルボに乗ったり、という、億万長者だけどものすごい倹約家として知られていたそうです。(でも、実は…?)
カンプラードさんは予告なしに店舗に現れることもよくあったのだとか。そう思うと、今回のありえないような出会いも、万が一の確率では起こりえたかもしれませんよね。
そして、諸々のウワサの中でも一番危険なネタも取り上げる本作の大胆さ(笑)
IKEAもよくOKしたよね?というレベルです。どんなに貶されても、全く動じない姿に王者の風格を感じます。私はそんなIKEAがより好きになったので、マーケティングとしては成功している…のかもしれません。
おわりに
配信サイトを漁っていたらたまたま見つけた本作。面白いかな?と少し不安もありつつ再生したら、予想以上の良作でした。偶然の出会いに感謝です。まだ見ぬ良作を求めて、作品探しも頑張ります!
今回はこのへんで。では、また。
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